Lady失格。
東南アジアのとある空港でこの文章を書いている。飛行機で安く日本に帰ろうとしたらどうしても乗り継ぎが多くなってしまう。当然のことながら移動時間も長くなるのだが、学生の身分で贅沢は言っていられない。日をまたぐ移動になるため、飛行機搭乗前に化粧を落とすためにお手洗いに入った。
化粧を落とし、顔を洗い、歯を磨き、、、ここまできて、
はあ。
と大きなため息をつく。
何度も何度も繰り返しているミスをまたもや起こしていることに気が付くからだ。
ああ、化粧水が、ない。
あああ、乳液も、ない。
あああああ、あああああ、スーツケースの中に全部ぶっこんでしまった!
男性諸君はこの絶望感を知らないかもしれない。が、これは結構な一大事だ。
肌が、ぐんぐん、ぐんぐん、乾いて、いく、、、。自分の肌が砂漠と化していく焦燥感。
地球温暖化が急速に進んでいるといわれてもなかなか危機感を感じることができなくても、自分の肌がじわじわと乾いていくことには並々ならぬ危機を感じる。そういうものだ。
ここまできて私はもう一度大きなため息をつく。
はあ。
いつものあれ、を決行するしかないことを覚悟するからだ。
そして、免税店に走るのである。この国ではデパートでもどこでも、お店で何か選ぼうとすると背後に店員さんがぴったりとついてくれる。普段でさえ私はこれがとても居心地悪く感じるのだが、この時ばかりはもうたまらない。だが恥ずかしいなどと思う余裕は、ない。
「ウ~ン、これいい匂いだなあ、ウ~ンこれも好きだなあ」などとわざとらしいひとりごとをつぶやきながら使ったこともない高級化粧水のテスターを塗りたくる(しかも顔に!)気まずさといったらもう!!
高校時代に職員室で頭をぽりぽりしたら、後ろから先生に手をつかまれて
「あなた、Lady失格よ」と言われた、あの声が頭の中でこだまする。
あなた、Lady失格。ああ、私、Lady失格。
そしていそいそと退散する。
どれだけ努力しても失敗することはある。6年間の女子高教育において先生方の血のにじむようなLady育成プロジェクトは私に限ってはどうやら失敗だったようだ。すんません。
だけど、心の片隅にひっそりと存在している恥じらいはせめてもの成果だ。
と、今まで何回繰り返したかわからない一連の流れを経て、帰路につく。